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Gender medicineとしての尿失禁
尿失禁はquality of life(QOL)を低下させ,行動範囲を狭めるやっかいな疾病である.解剖学的な尿禁制機構は男女間で差があり,加齢,エストロゲン欠乏などが加わって女性には尿失禁が出現しやすい.尿失禁はまさに性差の疾病である.「尿漏れ」は羞恥心のためか患者の多くは専門的な診断・治療を求めて受診することを躊躇している.また,プライマリケアに当たる医療従事者側(医師,看護師,ソーシャルワーカー)も尿失禁ぐらいという安易な感覚で,積極的な尿失禁患者の検索を怠っていることも現実である.尿失禁は生命にかかわる疾患ではないが,慢性的な外陰部の発赤,ただれや皮疹,ひいては外陰部潰瘍の形成,尿路感染症,トイレへの切迫性のための不意の転倒,それに伴う骨折など重大な疾病の素因となる.高齢者が多く,きまりの悪さや周りの非難などから,うつ状態となることも多く,介護者の重荷と重なって不必要な施設への入院(収容)の危険性を増すことも問題となっている1).医療従事者は本疾患に対して正しい理解を持つ必要がある.
男性と女性の尿禁制機構の相違は,尿道と,尿道圧を維持する骨盤底の構造にある(図1).女性の尿道が3~4cmであるのに比べて,男性の尿道は約20cmと長く,膀胱の下で前立腺が尿道周囲を取り囲み,その先の2か所で曲がっている.前立腺は肥大する臓器であるため,男性の場合,排尿障害をきたしやすい構造で,閉塞に起因する溢流性尿失禁が起こりやすくなる.逆に,女性では尿道および膀胱を支えるのは前腟壁であり,前腟壁の強度は子宮頸部,坐骨棘から恥骨にかけて膜状に広がる恥骨頸部筋膜と呼ばれる結合織によってハンモック状に支えられる.このハンモックが障害されると最適な尿道圧縮が起こらず,尿漏れが出現する(腹圧性尿失禁).女性の尿道は短く,完全な輪状の括約筋はなく,蓄尿障害に起因する尿失禁(切迫性尿失禁)も出現しやすい.
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