連載 症例
鼠径部腫瘤より発見された卵巣癌の1例
卜部 理恵
1
,
松浦 祐介
1
,
坂井 啓造
1
,
田中 真由美
1
,
川越 俊典
1
,
土岐 尚之
1
,
柏村 正道
1
1産業医科大学産婦人科
pp.835-838
発行日 2004年6月10日
Published Date 2004/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409100551
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鼠径部腫瘤より発見された卵巣癌の1例を経験した.症例は53歳.圧痛を伴う1.5 cm大の硬い左鼠径部腫瘤を自覚し,左鼠径ヘルニアの診断で左鼠径部腫瘍切除術が施行された.病理組織診で類内膜腺癌と診断され,婦人科原発の悪性腫瘍が疑われ当科を受診した.画像検査より悪性卵巣腫瘍を疑い開腹術を施行した.左卵巣は4 cm,右卵巣は3 cm大に腫大し,表面は不整であり,骨盤内に限局した最大2 cmの播種巣を認めた.左鼠径部腫瘍の断端は円靱帯と連続しており,鼠径ヘルニア内の腹膜播種と考えられた.左右卵巣組織の病理診断は,左鼠径部腫瘍と同様に類内膜腺癌であった.術後診断は卵巣癌IIc期となり,術後化学療法を6コース施行後,現在は無病状態である.転移性の鼠径ヘルニア嚢腫瘍はきわめて稀であるが,ヘルニア手術の際の腫瘤性病変に対しては積極的に組織検査を行う必要がある.
はじめに
鼠径ヘルニアの手術を行った症例の約0.07%に悪性腫瘍の転移が認められたとの報告があり1),鼠径ヘルニア内に悪性腫瘍を認めることはきわめて稀である.本邦では,われわれが検索した限り卵巣癌の転移が鼠径ヘルニアから発見された報告は竹内ら2)の1症例にすぎない.今回われわれは,鼠径部腫瘤を主訴として来院し,精査の結果,卵巣癌が発見された症例を経験したので報告する.
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