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1 はじめに
近年,「小さな政府」の掛け声とともに,国民医療費の増大による政府財政の圧迫が叫ばれ,医療環境は疾病の治療のみならず保険制度の抜本的改革まで問題が山積している.
保険診療は各種法令と診療報酬点数表および厚生労働省の各種通知によって定められている(保険診療は約束にしたがった契約診療).この契約診療は,法律的に,対価を得て一定の事務を遂行する「準委任契約」(民法第656条)の一種とされている.なお,契約当事者は病院開設者と患者である1).これにより,手術や処置,検査,薬剤の用法・用量・投与期間には制限がある.
1. 保険給付の対象
医師が診療の必要があると認める疾病や負傷であり,健康診断や予防医療,正常妊娠や正常分娩,人工妊娠中絶,美容医療などは給付の対象外となる.
2. 療養の範囲
診療,薬剤や治療材料の支給,処置・手術,その他の治療,居宅の療養,病院や診療所への収容や看護の提供を旨とする.
3. 給付の期間
転帰まで.ただし,退職後の継続療養は診療開始日より5年間である.
4. 現物給付と現金給付
患者は医療機関から医療サービスの現物(療養や療養費の給付)を提供される(現物給付).このサービスの範囲は健康保険法などの法律で定められており,全国均一の価格が診療報酬体系により決められている.この代金は医療保険制度から審査支払機関を通して医療機関に支払われる.一方,保険証を提示せず自費で受診した場合などの療養費,出産手当金,分娩費,育児手当金は受給権のあるものが,一定の手続きにしたがって申請・請求することによって現金で支給される(現金給付).
5. 診療方針に関する法令
1) 健康保険法
前述の保険給付の対象,療養の範囲,期間に関し妥当,適切なものでなければならない.保険医療機関において健康保険の診療に従事する医師は都道府県知事の登録を受けた医師である必要がある.この法律の43条には後述の保険医療養担当規則が定められており,保険医はこれを順守しなければならない.
2) 医師法
24条には「診療したときは,遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない」とされており,診察者の氏名,主訴,既往歴,現病歴,検査や治療の内容,診断名,転帰などを記録する必要がある.管理者は,完結の日から5年間,この診療録(カルテ)の保存が義務付けられている.
3) 保険医療養担当規則
前述のように,保険診療は約束にしたがった契約診療である.保険医の診療方針では,12条に「保険医の診療は,一般に医師として診療の必要があると認められる疾病又は負傷に対して,適切な診断をもととし,患者の健康の保持増進上妥当適切に行なわなければならない」とされる.
18条には「保険医は,特殊な療法又は新しい療法については,厚生労働大臣の定めるもののほか行ってはならない」とされ,学術雑誌などに記載されるすべてが許可されるものではない.
19条には「保険医は,厚生労働大臣の定める医薬品以外の薬物を患者に施用し,又は処方してはならない」とされ,適応外使用が制限される.
20条には医師の具体的方針が挙げられており,「健康診断は,療養の給付の対象として行ってはならない」「各種の検査は,診療上必要があると認められる場合に行う」「各種の検査は,研究の目的をもって行ってはならない」「投薬は,必要があると認められる場合に行う」「手術は,必要があると認められる場合に行う」「処置は必要の程度において行う」などに考慮し診療する必要がある.薬剤の使用に当たっては適応症,用法・用量,投与期間に制限があり,薬剤添付文書の確認が求められている.
22条には「患者の診療を行った場合は,遅滞なく,定められた様式又はこれに準ずる様式の診療録に,診療に必要な事項を記載しなければならない」とされ,カルテの記載義務が定められている.
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