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1 はじめに
わが国の疾病構造は,生活習慣の欧米化や高齢化などにより大きく変化しつつある.現在,死因の第一位は悪性新生物であるが,第二位の心疾患と第三位の脳・血管疾患とを合計すると,悪性新生物を上回るようになった.つまり,脳・心・血管系の疾患による死亡が第一位であり,全死因の約3割を占める.脳・心・血管系の疾患には動脈硬化が存在し,その病態は動脈壁にコレステロールが沈着し,動脈壁の弾力性が失われ,血液の循環が悪くなるものである.すなわち,動脈硬化は脳卒中や心筋梗塞という2大死因につながるので,これを予防できるかどうかがその後の人生を大きく左右する.
動脈硬化による心・血管系疾患の発症は加齢とともに上昇する.その発症は女性と男性でやや異なり,男性では55歳以前の発症は女性の5~8倍で,女性では閉経前の発症はとても少ない.しかし,閉経後に急増して55歳以降は男性と同等の発症率となる1).これは閉経によるエストロゲンレベルの低下による心・血管系への保護作用の破綻がその大きな要因として考えられている.多くの疫学調査において,閉経後女性に対する女性ホルモン補充療法が動脈硬化による心筋梗塞の発症を約半分に低下させるとの報告がある2, 3).しかしながら,最近,心・血管疾患への一次予防を目的とした前方視的大規模無作為臨床試験であるWomen's Health Initiative(WHI)の結果より,ホルモン補充療法は大腿骨頸部骨折の発症を減少させることが確かめられたが,心・血管疾患のリスクを下げないことが明らかになった4, 5).
動脈硬化症は症状を伴わないことが多く,その診断,予知,および発症予防は閉経後のquality of lifeの向上のために重要である.そこで本稿では,まずエストロゲンの血管への生理作用および作用機構を説明し,さらには超音波装置を用いた非侵襲的な動脈硬化病変の検索の紹介,最後にWHIの結果を踏まえた今後の心・血管疾患の対策を考察したい.
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