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はじめに
子宮内膜症のがん化に関する論文をレビューすると,現在までに以下のことが報告されている.疫学的な検討では,良性卵巣嚢腫や子宮内膜症から発がん(adenoma─carcinoma sequence)する場合と,正常卵巣や腹膜上皮細胞からいきなり発がんしている(de novo)場合がある1).前者にはclear cell carcinoma(CCC)やendometrioid carcinoma(EC)が多く,後者にはserous cystadenocarcinoma(S)が多い.また,子宮内膜症が合併した卵巣がん患者は閉経前の患者に多く,ECとCCCの頻度が高く,早期がんが多い2~8).予後に関しては,CCCはプラチナ製剤やほかの抗がん剤に反応しにくいため,予後不良といわれている9)が,子宮内膜症合併卵巣がんは早期がんやG1が多く,このなかにECとCCCが多く含まれるため比較的予後良好である10, 11).Danazol治療などの男性ホルモンにより子宮内膜症のがん化が加速されるという報告もある12).Atypical endometriosisが前がん病変と考えられる13).
また,子宮内膜症のがん化に関しては,その頻度は2.5%以上の可能性がある10).子宮内膜症の発症は多くの遺伝的背景,環境要因,免疫学的因子や内分泌学的因子が関与しているが,子宮内膜症と卵巣がんには共通点が多い14, 15).Loss of heterozygosity(LOH)に示されるような遺伝的変異は子宮内膜症にも多く3),がん抑制遺伝子の失活が子宮内膜症の腹膜病変の発生に関与している可能性が示唆される16).遺伝子レベルでの解析により子宮内膜症からCCCへの移行にはK─ras mutationが関与し17~19),p53やPTEN mutationはECに多い20~22)との報告が散見されるが,CCCへの移行に関する遺伝子変異の解析は不十分である.
したがって,子宮内膜症から発生する卵巣がんについては次の2つの考え方が存在する.(1)両者には遺伝的背景などが共通しているため,偶然に合併しているだけであり,内膜症ができやすい人が卵巣がんにもなりやすいだけである,(2)良性の子宮内膜症が内的・外的要因を介してatypismを経て卵巣がんになる.しかし,現時点ではいずれが正しいか確証はない.いずれにしても,少なくとも一部の子宮内膜症性嚢胞から卵巣がんに変化していくことは疫学的,病理学的には十分根拠があると考えられる.
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