視座
人工関節手術と生体防禦
広畑 和志
1
1神戸大学整形外科
pp.451
発行日 1980年5月25日
Published Date 1980/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408908593
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先賢は生体内に異物を入れることを極力避け,止むを得ない場合にはできるだけ小さいものにとどめた.生体における異物反応と感染の脅威を肌で感じていたからであろう.人工関節手術は大きな無生物を生体内に終生置いて機能させる点では,整形外科手術の歴史の流れを変えた画期的なものといえる.それに因んでlate infectionとかdeep infectionのような耳新しい術語は無為に抗生物質の助けを借りていた整形外科医に術後感染を再認識させたものである.Bioclean roomの設立はその一つのあらわれである.この中で行われる手術の感染率が低下したことは否めない.
ペニシリンが市場に現れた時も術後感染の予防に劇的な効果があつた.その後生体防禦反応や術後感染について無関心であつたのか優れた抗生物質は次々に生れた耐性菌のため早々と市場より消えている.今,人工関節置換に際して,術前・術後に長期間抗生物質を投与するのが常識となつている.抗生物質を使用しなかつた関節置換に感染率が低いという皮肉な研究成果が内外で報告されている.抗生物質を投与していても安全でないことを示唆し警告の意味で興味深い.同じようにbioclean roomで甘んじて手術をすれはば感染率が低くなるとは思えないが,その需要が多くなつたことはasepticの再認識の点で評価されよう.
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