視座
臨床教育と医療費
辻 陽雄
1
1富山医科薬科大学整形外科
pp.961
発行日 1984年9月25日
Published Date 1984/9/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408907029
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医学生や卒後研修医の人達とともに生活している関係上,ときどき国民医療費の実態と医療のあり方などについて,問題意識を促すように心掛けている.医療を担うものとして不可欠なことの一つと考えるからである.昭和45年に約2兆5千億円だった総医療費が,その後急速な伸びを示し昭和50年には6兆5千億,そして昭和58年には14兆5千億円にも達した.GNPに占める医療費の割合は今,10年前の約2倍の6.5%と欧米なみになった.医学生にこの総医療費額を問うてみると約1〜2割の人が理解しているに過ぎないのは残念である.ともあれこの莫大な医療費は収入を得ている国民が等しく相互扶助,博愛の精神の上に立って,乏しい月給の中から出し合って形成されるものであり,それを切りくずすことのできる権限を与えられているのは私達医師なのである.医療費の急速な増大は抗癌剤,抗生物質をはじめとする高価な医療・検査薬剤の開発をはじめ,特殊診断法の進歩,体内埋没材料の台頭など,医学技術進歩の当然の帰結でもある.しかし,一方では診断ということを例にとると,多くの特殊診断法が保険医療制度の中にあって極めて身近に行えるようになったことが,ややもすればこれが一足飛びに,ときにはセット化されて実施される可能性を秘めている点に注目しなければならない.このことは,診断学の基本からみるとき,病態把握という一連の過程での短絡思考を知らぬ間に身につけてしまう危険性を常にはらんでいる.
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