シンポジウム 顔面外傷
交通事故と顔面外傷
藤野 豊美
1
Toyomi FUJINO
1
1慶応義塾大学医学部形成外科学教室
pp.395-400
発行日 1973年5月25日
Published Date 1973/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408904838
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生物はすべて運動している.人間が他の生物との差を創り出したのは,この運動を代償する智恵をもつたからである.その1例として,人間は歩く代りに自転車を発明し,さらに自動車,汽車,飛行機,ジェット機と交通機関を発達させた.この流れをp=mvの立場からみると,質量と速度は時代と共に大きくなり,その結果運動量も巨大化する傾向をとつている.限定された人生の時間を有効に使える利点の反面に,まかり間違えば人間の統禦できる以上の運動量が暴走し,一瞬にして多量の死をもたらすおそれを含んでいることは日常経験する現実である.
こうした交通機関のなかで,われわれ誰もが容易に入手し利用できるのが自動車である.人間の歩行する道路ならどこでも走行できるこの大きな運動量をもつ鉄塊は,カンと経験のくるつた操作を行えば一瞬にして走る凶器となる(アメリカでは走る棺桶という).事実,警察庁の統計によれば,年間の死亡例は2万人をこえ,負傷者は100万人に近く,しかも年々と増加する傾向にあるという.
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