論述
前斜角筋症候群について
山室 隆夫
1,2
,
田中 三郎
3
Takao YAMAMURO
1,2
1京都大学医学部整形外科学教室
2神戸中央市民病院整形外科
3天理よろづ相談所病院整形外科
pp.579-586
発行日 1967年6月25日
Published Date 1967/6/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408904245
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はじめに
頸肩腕より手におよぶ疼痛を主徴とする神経・血管性障害のうちで,一部の症例はその直接の原因が前斜角筋にあることは1906年Murphyによつて示唆された.また,1927年Adson & Coffey1)は頸肋を伴つたこのような疾患に対して,前斜角筋を切離すことにより症状の緩解が起ることを実証した.1935年Ochsnerら10)はこのような神経・血管性障害を初めてScalenus anticus syndromeと呼び,その病像を明らかにするとともに,その成因に関しては,頸肋の存在は必ずしも必要ではなく,上腕神経叢がなんらかの原因により刺激され,そのために前斜角筋のspasmが起り,上腕神経叢および鎖骨下動脈が前斜角筋と第1肋骨(または頸肋など)との間で圧迫されることによるものであろうと述べた(第1図).それ以来,今日まで本症に関して数多くの報告がなされ,その病態のメカニズムや治療法はかなり明らかとなつてきた.
しかし,増原ら9)も指摘しているように,前斜角筋と第1肋骨との間に鎖骨下動脈が圧迫されて,上肢に著明な血管症状をきたすことはむしろ稀ではないかという考え方もあり,また近藤8)や五島5)らは血管症状が証明されなかつた症例をも前斜角筋症候群として分類しており,本症がいわゆる広義の頸肩腕症候群のうちの一つの独立した疾患として位置づけられてきた意義が薄れた感すらある.
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