視座
生体組織工学と整形外科
石黒 直樹
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1名古屋大学大学院医学系研究科機能構築医学專攻運動・形態外科学整形外科
pp.1387-1388
発行日 2002年12月25日
Published Date 2002/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408903690
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生体組織工学という言葉を最近よく耳にされることと思う.再生医療に対する期待が高まるなかで,再生医療イコール生体組織工学であるかのような理解が生まれている.正確には生体組織工学は再生医療を可能にする手段を提供する方法論である.組織が損傷した部位で正常に再生できないのは,組織の修復が誤った方向に進むため,本来の組織への修復が阻害されるとも考えられる.この考えに従えば,周囲からの不必要な組織の侵入を防ぎつつ,再生を促進することが肝要である.この再生を促進するための技術の開発を目的とするのが組織工学研究である.現在,再生には①細胞,②細胞の足場,③成長因子など(分化・成長促進物質)の組み合わせによる環境整備が必要と考えられている.
整形外科では臓器の再生は必要なく,組織の再生で十分に活用できる点が重要である.骨折の治療は骨組織の再生を,骨切り術は荷重軸の変更による軟骨面(組織)の再生を期待していた.再生しやすくする工夫,例えば強固な固定や,解離を少なくするなどの注意が払われていた.しかし,一部を除き,積極的に組織再生そのものに対する人為的な操作を加えていたとは思えない.そこでは当然患者の治癒(再生)能力に頼る部分が大きくなるし,結果も治癒(再生)能力の小さな例では劣ることになる.言い換えてみれば,「治るモノは治る.治らないモノは治せない.」ということになってしまう.それでも再生能力に優れる骨組織は何とかなるが,神経・軟骨組織では結果は誠に覚束ない.
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