巻頭言
生体組織コンパートメント論
森岡 亨
1
1熊本大学医学部麻酔科
pp.995
発行日 1973年11月15日
Published Date 1973/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404202549
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生体は,短時間内には容積の変らない水力学的コンパートメントの集合だと考えると,呼吸循環に関する諸現象を説明しやすくなるものが多い。頭蓋はコンパートメントであり,中にある脳髄は,いかに軟かくとも圧縮性のない組織である。頭蓋腔に動脈血が拍動性に流入する時,volume ventとして内頸静脈に流速脈波の生ずる(小林)のは理の当然である。同様に全身各部の細小静脈にも,動脈拍動と時相が同じで,中心静脈からの影響とは考えられない流速脈波が認められる(矢埜)。末梢組織が微小コンパートメントの集合であると考えると説明しやすく,それを裏付ける解剖学的生理学的事実がある。足の毛細管内圧は,しばしば瞬間的に100mmHgを越す(宮崎)にもかかわらず,うすい内皮が破綻しないのは,それぞれの部のコンパートメント内でパスカルの原理が働き,タイヤの中のチューブのようにtransmural pressureを小さく保っているからであろう。
胸腔がコンパートメントであり,吸気時の胸腔内陰圧がthoracic pump効果により静脈還流を促進すると考える人は,股静脈血の還流速度が吸気相に抑制され呼気相に促進されることのある現実(寺崎)を説明するには,腹腔もまたコンパートメントであって,その内圧変化は横隔膜を境として,胸腔内圧変化とは往々にして逆相であることを認めざるをえまい。
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