視座
望まれるOrthogeriatricsの開拓
上羽 康夫
1
1京都大学医療技術短期大学部
pp.1089
発行日 1994年10月25日
Published Date 1994/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408901463
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今,我国においては急速に高齢化が進み,高齢者に対する医療の在り方が真剣に討議されつつある.老健施設の増設,在宅ケアの充実などが急眉の課題として取り上げられているが,それに伴う財政問題も重要課題である.整形外科領域における変形性関節症や骨粗鬆症には高い関心が持たれているが,高齢者に対する整形外科医の取り組み方はまだ十分であるとはいえない.
例えば,高齢者の老化現象はまだ疾患として認識されているように思われる.思春期の男子が声変わりをしたり,女子の乳房が大きくなっても,人々はそれを疾患として治療を試みることはない.それは思春期における第二次性徴の変化は生理的成熟現象であることを知っているからである.然るに,高齢者の変形性関節症や骨粗鬆症にはすぐに治療を試みる.しかし,高齢者に現れるこれらの現象は高齢者の生理的老化現象であり,一過性の疾病ではない.20歳の若者と同様に関節軟骨が厚く,骨密度の高い75歳の老人が居れば,その方がよほど異常である.したがって,高齢者にみられる諸変化を投薬や手術対象とみなすのではなく,むしろ正常な人間として生活できる方法を考えるべきであろう.ただ,高齢者変化には疼痛や痺れなどの不快な症状を随伴するばかりでなく,日常生活機能が低下し,本人ばかりでなく周囲の人々にも負担がかかるから,それらの対策がどうしても必要となる.
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