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はじめに
ヒトの骨,腱,靱帯といった運動器が支える組織は,全身性因子,局所因子の影響を受け,新陳代謝(リモデリング)を営み,生体の要求に応じた変化をとげる.ヒトの平均寿命は90歳を超える勢いであり超高齢社会が到来しており,組織の成熟や老化の過程を理解することは,加齢に伴い発生する疾患の予防や治療を考えるうえで重要である.
また,ヒトに類似した疾患モデルを確立し,診断法や治療法を確立することが必要となる.研究費の問題などで大型動物の使用は困難ではあるが,骨の研究においては,長管骨がリモデリングせずに生涯成長し続ける齧歯類(マウス,ラット)と,常にリモデリングを営むサル,イヌ,家兎とでは,根本的な差があることを認識すべきである.齧歯類のデータは論文化されても,必ずしもヒト骨疾患にあてはめることができない.特にリモデリングの過程で骨量,骨質(構造,材質)を変化させる薬剤の影響については,齧歯類の成果はヒトへの効果として当てはめることは必ずしもできないのである(図1)1,2).
骨密度以外の骨強度因子として「骨質」の概念が提唱された当時は,「構造学的な骨質」のみがクローズアップされた3,4).骨強度は骨密度と骨質に依存するとされたが,患者診療において,骨吸収が抑制され骨密度が上昇し,構造学的な骨質が改善しても骨折リスクが低減しない症例も経験する.さらに,多施設前向き介入研究でも骨質劣化型骨粗鬆症(osteoporo-malacia)では,骨吸収抑制薬により骨吸収マーカーの値が低下し骨密度が増加しても骨折リスクが高いことが明らかにされている5).
こうした事実は,骨ミネラル成分,骨構造とは独立した機序で,骨強度を規定する骨の質を規定する「材質学的な骨質因子」の重要性を物語っている(図2)6-9).特に骨の主要なコラーゲンは細胞外基質の主要な構成成分であり,コラーゲンの質的な異常(主に翻訳後修飾)が,不十分な石灰化(類骨様)であったり,酸化ストレスの亢進による過剰老化を来していると,骨折リスクを高めることがエビデンスとして示されている.
本稿では,同じ1型コラーゲンを主たる構成成分とする腱や靱帯と骨との相違点について述べる.さらに「酸化ストレスに起因する骨質劣化=コラーゲン過剰老化4,6)」とは異なる「ビタミンD欠乏型骨質劣化型骨粗鬆症(骨軟化症型)」について,ヒト骨分析,および10〜90歳までの日本人5,518人の世界初となるエビデンスを紹介する9).
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