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はじめに
運動器の障害は,歩行障害を介して高齢者の生活の質(quality of life:QOL)を著しく損なう.そのため,超高齢社会に突入したわが国においては,高齢者のQOLの維持増進や健康寿命の延伸,医療費の低減のためには,運動器疾患の予防対策は喫緊の課題である.そこで日本整形外科学会は,運動器の障害のために要介護となる危険の高い状態をロコモティブシンドローム(locomotive syndrome,以下,ロコモ)と定義し7),要介護予防の立場から疾患横断的に運動器疾患をとらえ,その予防対策に乗り出している.
一方,生活習慣病とは,食習慣,運動習慣,休養,喫煙,飲酒などの生活習慣が,その発症・進行に関与する疾患群である.わが国にはもともと加齢に伴って発生率が高くなる疾患群という意味合いの「成人病」という概念があり,昭和30年代から日本人の死亡率で上位を占めるようになったがん,脳卒中,心臓病は「三大成人病」とされ,集団検診による早期発見,早期治療の体制が整えられていた.しかしこれらの成人病には,生活習慣が影響していることが知られているのと同時に,成人だけではなく未成年者にも糖尿病をはじめとする「成人病」を発症する例が増えてきた.1996年,「生活習慣に着目した疾病対策の基本的方向性について」とする公衆衛生審議会意見具申2)がまとめられ,従来の「成人病」の概念にかわって,生活習慣に着目した疾病概念とする「生活習慣病(life-style related diseases)」という呼称が提唱された.現在,代表的な生活習慣病として,高脂血症・高血圧・糖尿病・心筋梗塞・動脈硬化・脳梗塞・がん(悪性腫瘍)・痛風・歯周病・メタボリックシンドロームなどが挙げられる.
メタボリックシンドローム(metabolic syndrome,以下,メタボ)は,内臓脂肪型肥満を共通の要因として耐糖能異常,脂質異常,高血圧が引き起こされる状態である.さらにこれらの要因が重積すると,相乗的に動脈硬化性疾患の発生頻度が高まることから,メタボの頻度を把握し,生活習慣の改善により動脈硬化性疾患発症を予防することは,介護予防の面からも医療経済学的にも焦眉の課題である.
すなわち,ロコモもメタボもいずれも要介護予防においては重要な疾患であり,それらの予防対策は重複している点も多いと推定される.しかしながらロコモとメタボの関連についての報告は多いとは言えない.
筆者らは,わが国の運動器疾患とそれによる運動障害,要介護予防のために,変形性関節症(osteoarthritis:OA)と骨粗鬆症(osteoporosis:OP)を中心とした運動器疾患の基本的疫学指標を明らかにし,その危険因子を同定することを主たる目的として,2005年から大規模住民コホートROAD(Research on Osteoarthritis/osteoporosis Against Disability)プロジェクトを開始した8,9).本稿では,一般住民におけるロコモとメタボの関連をみるために,ROADデータベースの結果を用いて,ロコモ原因疾患の中でも特に肥満と関連が深い膝OA(以下,KOA)と,メタボの構成要素である肥満,耐糖能異常,脂質異常,高血圧との関連について検討した.
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