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本書の英語版「Hand and wrist surgery」の著者Kevin C. Chung氏は,形成外科医であるが橈骨遠位端骨折などの骨関節外傷の手術も得意であり,研究論文を精力的に執筆している.「Hand and wrist surgery」には,指骨折から先天異常・麻痺手の再建術までの代表的83疾患・外傷の手術手技を1,400点以上の手術写真と明快なシェーマにより簡潔かつ的確に解説されている.Kevin C. Chung氏が全体の約1/3を担当し,残りの2/3は各手術のエキスパートが選ばれて担当し,各執筆者の原稿はKevin C. Chung氏により練り上げられ,臨床に直結するというコンセプトで貫かれている.私は,本書の英語版を早速購入したが,英語版であるため忙しい臨床の場で活用するには至らず書庫に眠っていた.
その「Hand and wrist surgery」が,日本語版「手の外科」として出版された.訳は本邦手外科医の第一人者である三浪明男先生である.原著の意を汲みとって読みやすく,しかも用語集に記載された医学用語を用いた三浪明男先生の訳により,本書の価値は数段高まっている.速読可能で手術適応,画像所見,手術に際しての局所解剖・体位・アプローチ,そして後療法を数分で確認できる.私は術中に,「これを準備するのを忘れたッ」,「あれをチェックしておけば良かったッ」とほぞを噛むことがある.また思わぬ窮地に陥り慌てることもしばしばである.本書には手術のコツ,落とし穴,用意する機器まで欄外に記載されている.また対立する意見や代表的文献の選択なども公正に紹介されている.術前に,本書「手の外科」を一読することにより,このような「たら」「れば」という事態は回避され,手術に対する万全の技術的・論理的準備が可能となる.
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