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■はじめに
整形外科領域の手術は,骨折の整復固定術はもちろん,骨切り術,骨再建を伴う人工関節や脊椎固定術といった多く手術において骨癒合が得られることを前提として施行される.しかし骨腫瘍切除術や近年増加傾向にある人工関節の再置換術においては手術で生じた骨欠損を再建するために巨大な骨移植が必要となり,ときに手術治療の前提となる骨癒合が得られず遷延癒合する症例や移植骨が吸収される症例を経験する.このような症例は今後も増加することが予想され,骨移植手術の骨治癒を促進するような治療法の開発,確立が期待される.
移植骨には自家骨と同種骨があり,その特性が異なる.すなわち自家骨は生物学的足場となる骨器質と間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells:MSCs)など骨形成能をもつ細胞成分の両方が備わっていることで骨治癒は比較的良好である.ただ,その採取量に制限があり巨大な骨欠損には対応できない.一方,同種骨は複数の保存骨を使用することで巨大骨欠損への対応も可能であるが,骨器質のみで細胞成分が欠如した,いわゆる“dead bone”であるため骨癒合率が自家骨に劣ることが知られている8).実際,長管骨の骨腫瘍切除後の骨欠損を同種骨で再建した場合の癒合率は60%以下6)で成績はよくない.したがって,このようなdead boneの骨治癒といった困難な条件においても骨癒合が促進される治療法が開発されれば骨再建の手術成績の飛躍的な進歩が期待できる.われわれはこの課題を解決すべくケモカイン分子stromal cell-derived factor 1(SDF-1)とその受容体CXC receptor 4(CXCR4)に注目し,マウスの自家骨移植および同種骨移植モデルの骨治癒を比較することで骨治癒メカニズムを研究した.
本稿ではわれわれの研究結果12)とあわせて骨治癒におけるケモカインSDF-1の役割とその治療展望を概説したい.
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