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今,日本の医療を取り巻く環境は極めて厳しい状況下にあり,間違いなく曲がり角に来ている.先日,2008年時調査による我が国の平均寿命が報告されたが,女性は86.05歳で連続24年世界一,男性は79.29歳で,前年より1ランク下げ世界第4位であった.このように,わが国はそれなりに豊かで世界でもトップの長寿を享受できる国になったが,この長寿は民族性,食,環境,教育,経済力などに加えて,高い医療の質と医療関係者の努力,そして,国民皆保険制度などによるところが大きい.その結果,少子化と相俟って,世界に類を見ない超高齢化が進んでいる.数年後には65歳以上の高齢者比率は30%(約3300万人),2050年には40%に達すると推測され,少子化,労働人口激減という大変な人口構造になる.そして医療界では,ここ数年,わが国の総医療費は33兆円強と対GDP比8%程度に押さえられ,OECD平均に比べても2%程度低い.さらに医師不足,地方医療の崩壊,小児・産科・救急医療崩壊,医療訴訟急増…等々が現実化している.今こそ,日本の医療体制,医療制度そのものを根本から見直す時期に来ている.ここで対策を講じないと,以前のイギリスで起こった医療崩壊と同様な経過を辿ることが危惧される.ところで,国民10万人に対する医師数は日本が206人,OECD平均は300人であり,民主党は政権交代になれば医師数を単純に1.5倍にすると公約している.そして,OECD並みに医療費比率を引き上げようとしている.しかし,数字合わせだけで,崩壊寸前にあるわが国の医療が改善するとは思えない.日本と米国の医療制度は大きく異なってはいるが,ここで単純に比較してみると,総医療費GDP比率は日本8.1%,米国15.3%,病院数は9,200と6,400,病床数/1,000人は12.8床と3.6床,在院日数は28.3日と6.7日,医師数/bedsは15.6人と77.8人,同様に看護師数/bedsは42.8人と230.0人,そして女性医師比率は14.3%と21.8%である.このデータを皆さんはどのように判断するか.米国もオバマ大統領が医療改革を公約に掲げているが,両国とも極めて困難な医療環境に陥っていることは事実である.解決策は何か.その基本はすべての国民がそれぞれの医療制度,問題点などを根本から理解し,健康維持のため国民自らが医療費を含めた相当の痛みを伴う覚悟をすることである.そしてこの医療改革には,医療側の置かれた環境を根本から改革していく国の施策が必要である.そのためには,医療側と行政,そして国民が一体となって医療改革を進める以外に道はない.21世紀の日本の医療を崩壊させないためにも,今がその最後のチャンスである.食,環境,エネルギー,教育,経済と同様に日本の医療,特に高齢者医療の問題は大きい.
さて,本号のシンポジウムでは「整形外科術後感染の実態と予防対策」が取り上げられている.計画通りに進んだ手術も,術後感染により患者への負担は倍増し,時には信頼関係が失われて訴訟問題へと発展することすらある.本稿では特に術後感染に対する予防対策が詳細に記載されており,少しでも術後感染を生じさせないためにもぜひ参考にしていただきたい.さらに「臨床経験」や「症例報告」にもそれぞれ示唆に富んだ論文が掲載されている.秋の学会シーズンの中,移動中の飛行機や列車の中で本誌をご一読いただけると幸いである.
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