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厚生労働省(厚労省)は,がん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病の4疾病に対して,医療法第34条内に省令として定めて重点的に疾病対策事業を展開してきた.その概要は,4疾病については厚労省主導による事業として医療計画を明示し,それらに対応した医療連携体制を構築して広範かつ縦断的な医療を提供し,国民の健康保持を図ろうというものである.これら4疾病は,患者数が多く,直接の死亡率が高いか,または限りなく死因に影響するもので,緊急性の高い疾患群とされている.ところが最近,この4疾病に加えて新たに精神疾患が取り上げられ,5疾病が今後の重点的対策事業となった.実際,平成21年のデータによれば,死因順位別の死亡数は,第1位が悪性新生物(がん)で34.4万人,2位が心疾患で18.1万人,以下,3位脳血管疾患12.2万人,4位肺炎11.2万人,5位老衰3.9万人,6位不慮の事故3.8万人,そして7位が自殺で3.1万人となっている.何と,自殺による死亡数は糖尿病による死亡数1.4万人の約2倍とのことである.また,平成20年の患者調査では,その患者数が悪性新生物152万人,脳血管疾患134万人,心疾患81万人,糖尿病237万人に対し,精神疾患は323万人となっている.確かに,私どもの一般整形外科診療においても,そして一般社会を見回しても,年齢を問わず精神疾患の患者さんは明らかに増加しているように思える.実際,慢性腰痛なども精神的要因が大きく関与していることがエビデンスとして示されている.今後は,認知症やうつ病などを中心に,厚労省主導による大規模な対策事業が行われるはずである.当然,莫大な研究費が投入され,全国規模での調査・介入研究,基礎研究が展開されるであろう.
では,われわれ整形外科が扱う運動器疾患はどうなのであろうか.介護予防対策として,新健康フロンティア戦略の中で運動器疾患対策事業が展開されているが,本当は高血圧や糖尿病と同じくらい,いや,それ以上に運動器は健康維持に重要なはずである.しかしながら,それを証明するような確固たるデータが明らかに不足している.ぜひとも,次の機会には運動器疾患を厚労省の重要疾病に加えていただき,6大疾病の一つとして運動器疾患対策事業がスタートすることを願っている.そのためにも,2万3千人の大組織である整形外科学会主導で,厚労省や国民から認められるようなデータを構築していく必要がある.運動器疾患により,どのような経過で,どのような病態で,どれだけが真に要支援・要介護に繋がるのか,また,どの程度,どのように生命予後に影響を及ぼすのか,しっかりしたエビデンスを示す必要がある.メタボリック・ドミノでは,最終的に透析や失明,下肢切断,脳卒中,心不全へと進むことが証明されている.では,ロコモティブ・ドミノによる場合はどのような経過をたどるのであろうか.それらのデータを基に,運動器疾患に対する診断基準の明確化と治療法の標準化を進め,しっかりした専門医制度の構築を行い,患者さん中心の医療を展開すれば,必ずや行政と国民から大きな信頼が得られるはずである.今後に期待したい.
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