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この度,厚生労働省から平成20年度診療報酬改訂が示され,同時にDPC対応医療機関には調整係数が通知された.しかし,全国の入院設備を有する医療機関の約7割が赤字経営を余儀なくされている現在,医師には安全・安心な上に高度な医療の提供と同時に,収益増も強く求められている.このように医師の役割,負担がますます増加している中で,医師はすべての責任を取らされ,何か事が起こったら直ぐに訴えられるような現状にある.これでは日本にブラック・ジャックは絶対に生まれない.リスクの高い手術は敬遠され,その結果,外科医の技術は低下し,高度先端外科治療などは海外で受けざるを得ない時代が間もなくやって来るような予感がしてならない.実際,勤務医は病院から離れ開業に向かうか,勤務・職場・立地条件などのよい施設に異動するという現象が既に始まっている.その結果,まず産科・小児科・救急医療体制の崩壊が進み,特に地方では最悪の状況に陥っている.次は外科が同じ状況となり,その次が整形外科とも言われている.慌てて国もその対応策を打ち出してはみたが,時既に遅しである.経済危機に陥っていたイギリスがサッチャー時代に行った医療改革,つまり医療費締め付け,市場原理主義導入などでイギリスの医療は完全に崩壊した.その後,イギリスがこの医療崩壊から立ち直るために相当の苦労,努力,時間を要したようである.今,まさに日本がそのイギリスと同じ医療崩壊の危機に陥っている.危機ではなく,実際は崩壊に至っている感が強い.その引き金は,新臨床研修制度か,マスコミの医者叩きか,国民感情か,医者・医療側の問題か,国の無策の問題か,国民皆保険・医療制度の問題か…….今,抜本的医療改革が必要な時期にあるが,国も医療側も大きな動きがとれていない.今回の診療報酬改訂を見ても全くの期待外れである.特定機能病院である大学病院等を含めて,病院に対して手厚い報酬が与えられ,1床当たり年間17万円増収,300床で5千万円増と報道されてはいるが,抜本的改革には全く結び付いていない.産科医の給与を上乗せする施策も報じられてはいるが,これで解決するほど問題は簡単ではない.わが国の総医療費はGDP比8%程度で,先進国の中では低い.そして,日本は総人口に比べて病床数が多く,医師は少ない.また,確実に少子高齢化,超高齢化社会に突入しているわが国では,2050年頃には65歳以上の高齢者比率は40%になると推計されている.これらの現状と将来を考えると,本当に今が医療体制全体を見直す時期にあることは間違いない.国が動かないのであれば,医療関係者が国民に理解を求め,国民と一体となって改善策を提言する以外ないように思える.本号の「視座」に寄稿してくれた安永先生の意見に全く同感である.日本の医療危機を脱するために今何をすべきか,医師一人ひとりが真剣に考え行動する時期に来ている.
さて,本号のシンポジウムでは高齢社会到来で大きな問題となっている「骨粗鬆症性脊椎骨折」が取り上げられている.まさに良いタイミングである.そして,それぞれ示唆に富んだ論文が掲載されている.日本の医療は今危機的状況にあるが,医学は,学問は不滅でありたい.間もなく桜前線が全国を通過する季節を迎えるが,日本の医療に一日も早く春が訪れることを願って止まない.
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