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今年4月より10年計画で国民の“健康づくり”とさらなる“健康寿命延伸”を目的に「新健康フロンティア戦略」が策定され,行政主導により実行される運びとなった.この施策は少子化・超高齢社会に突入したわが国において取り組むべき重要課題の1つである.本戦略の趣旨は『国民の健康寿命の延伸に向け,国民自らがそれぞれの立場に応じ,予防を重視した健康づくりを行うことを国民運動として展開するとともに,家庭の役割の見直しや地域コミュニテイの強化,技術と提供体制の両面からのイノベーションを通じて,病気を患った人,障害のある人および年をとった人も持っている能力をフルに活用して充実した人生を送ることができるよう支援すること』と資料に記されている.今後取り組むべき分野として,①子どもの健康,②女性の健康,③メタボリックシンドローム克服,④がん克服,⑤こころの健康,⑥介護予防,⑦歯の健康,⑧食育,⑨運動・スポーツの9つが取り上げられ,それぞれの分野で積極的に対策を進めていく方針が示されている.運動器を扱う整形外科関連では,「女性の健康」分野で運動推進や骨粗鬆症の予防が課題として取り上げられ,「介護予防」分野においては特にその中心的役割を整形外科が担うことになりそうである.つまり,この分野には運動器疾患対策の推進,骨・関節・脊椎の痛みによる身体活動の低下や,閉じこもりの防止が盛り込まれ,その対象疾患として「大腿骨頚部骨折」「骨粗鬆症性脊椎骨折」「変形性膝関節症」「腰部脊柱管狭窄症」の4疾患が明記されている.どれも整形外科,運動器疾患のcommon diseaseであり,要支援・要介護の原因の上位を占める疾患群である.今後は整形外科を中心に行政と一体となって,これら疾患群に対する基礎研究の推進,疫学・実態調査の実施,予防と重症化防止への運動療法を主体とした至適プロトコールの確立,早期診断法の確立と実行,安全で低侵襲な手術法の開発などに積極的に関与し,その責任の一端を担うことになる.ようやく行政も国民の健康寿命延伸,介護予防には運動器疾患対策が最大のキーポイントであることを理解し,「がん」や「生活習慣病」,そして「うつ病や痴呆」と同様に取り組むべき最重要課題であることを認識してくれたようである.これは整形外科にとっても今後の大きな発展に繋がるものと確信しているが,その反面,科学的根拠に基づいた診断法や治療法を確立していく必要があり,いよいよ整形外科の力量が試される時でもある.この機会を逸することなく,全国の整形外科医が一致団結して運動器疾患対策に取り組み,国民から絶対的に信頼される整形外科を築き,運動器が循環器や消化器と同等の地位を確保するための絶好の機会である.
さて今月号は,誌上シンポジウムとして「人工股関節―骨セメント使用時の問題点と工夫」が取り上げられている.セメントレス型人工関節使用例が増えてはいるが,今後の超高齢化に反映してセメント型適応例も増加していくものと思われる.このセメント型人工関節の術後成績を大きく左右する因子の1つがセメント手技であり,「人工関節手術の術後成績はセメント手技の善し悪しで全て決まる」といっても過言ではない.関節外科の先生方には本号をぜひご一読いただき,明日からの臨床に役立てていただければ幸いである.そして読者の皆様には,どうぞ素晴らしい夏(夏休み?)を十分満喫してください.
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