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わが国には医科大学が80あり,その分院も含めると整形外科医局というものが100近くあることになる.大学医局制度というものは医師の自由な交流性を阻害するものであり,狭隘な価値観で医師を縛るとともに,主任教授の独裁的権限機能を温存する,いわば諸悪の根源であるとの批判が,一時的ではあるが声高に叫ばれていた.大学医局を束ねる立場の者として,このような批判を意識しつつ,若手医師のキャリアデザインにおける大学医局の役割について私見を述べ,読者のご意見をお伺いし,今後の糧としたい.
若手医師の研修においては,知識の習得は個人の努力によるが,その応用には実践経験が必須であり,これを安全かつ効率的に実施するには優れた指導医が必要である.とくに外科系における手術手技などの習得には,症例の個性に合わせた最適かつ迅速な判断・手さばきなどの修練が必須であり,これは本や電子媒体などによる勉学では絶対に得られないものである.一方,若手医師にとって指導を仰ぐ医師は複数のほうが明らかによい.優れた指導医でも得意分野以外は最高の指導を行えるとは限らないこと,長年培った流儀には時には独善的なものがあること,などが主な理由であり,若手医師はいくつかの病院を回り複数の指導者に師事する過程で,徐々に自分の流儀を形成していくのが理想である.この形態はほとんどの大学で行われてきたローテーション方式そのものであり,大学の上級スタッフが若手医師に偏りのない研修を提供できる優れたシステムであると同時に,全員が平等に何の疑問もなく交代で僻地勤務などもこなし,つまり僻地に対する主要な医師供給源でもあったのである.一方,このローテーション制度は若手医師派遣を受けるいわゆる関連病院にとっても有用であり,次々と訪れる若手医師からの刺激により診療をアップデートでき,かつ恒常的な医師供給を受けることができる.医療機関が常に新鮮な活力のある医療を実践するには,医師の確保のみでなく,よどみない流れが必須と考えている.
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