統計学/整形外科医が知っておきたい
8.同等性(非劣性)の検証―帰無仮説採択の誤解
小柳 貴裕
1
Takahiro Koyanagi
1
1東京歯科大学市川総合病院整形外科
1Department of Orthopaedic Surgery, Ichikawa General Hospital, Tokyo Dental College
pp.905-910
発行日 2003年7月1日
Published Date 2003/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408100754
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◆はじめに
20世紀初頭より,有意差(優越性)検定が統計処理の主流であることは論を待たない.例えば2群の差の検定では帰無仮説は両群に差がない,すなわちゼロ仮説であり,それが棄却されて有意差を語れるものである.しかし,ノンゼロ仮説である対立仮説を棄却できるわけではない.それは援用する漸近分布;t分布はゼロ仮説のもとでの分布だからである.ノンゼロ仮説のもとではt値は歪んだ分布(非心t分布)となる6).実際,実験や調査は差があることを期待して行うのが普通であり,ゼロ仮説の棄却により証明される.しかし,新薬における従来薬に対する薬効の同等性や,合併症の少ない新手術法の従来法との成績の比較,より効果の期待できる新手術法と対照法との合併症発現の比較などにおいて,差がないことを積極的に期待する場合も決して少なくないように思われる.通常の有意差検定を行ってp>0.05が確認されても,「有意でなかった」より先の主張はできない4,7).海外の文献でも,結果で“not significantly different”が,結論では“similar”となっている例もみるが,見解の相違としても問題がある.またnを小さく設定して同等の結論を導くというのでは全くの矛盾である.F(t)検定の前の等分散の検定も実は異分散保留の検定である.このような矛盾を解決するために同等性の検証という問題が提起されたのである.同等性の検定は通常の有意差検定と併用しても帰無仮説の積が空集合であり多重性に抵触しない4).同等性を検証するためには同等限界Δというやや主観的な概念の導入が必要となる7).
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