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1997年,当時盛んに行われていた脊椎内視鏡手術の勉強を目的の1つとして米国に留学した.訪ねた先の1つであるWisconsin大学ではZdeblick教授がlaparoscopeを用いて腰椎前方固定術を積極的に行っていた.black discに対する腰椎固定術が多く,従来法に比べて低侵襲で成績も良いとのことであった.Baylor医科大学ではEsses教授に胸腔鏡手術(VATS)の胸椎椎間板ヘルニア手術を見学させてもらった.すでにこれらの知識は持ち合わせていたが,なるほど一般外科医に内視鏡展開をやってもらい,脊椎がでてから脊椎手術のみ行うのであれば,器具の扱いにさえ慣れればできるなとの印象を持った.しかし,日本では一般外科医と一緒に手術をやれる医療報酬制度がなく,こうした手術を行うには外科医の厚意に頼るほかはない.脊椎外科医だけで行える内視鏡手術はないものかと考えていたところ,Tennessee大学のSmith助教授がMicroendoscopic discectomy法という,後方進入で内視鏡視下に椎間板ヘルニアを摘出する方法をやっていることを知り,Memphisに見学に出かけた.彼がL5-S1の椎間板ヘルニア手術をやっているのを見学できた.そのころ彼は,まだこの手術を初めて50例程度の頃であった.わずか16mm径の外套管で腔を確保して,その中に内視鏡と操作器具を入れ,内視鏡視下にいわゆるラブ法を行うものである.それまで漠然と椎弓管隙から内視鏡を挿入するアプローチは考えていたが,腔をいかに確保するか考えが及ばなかった.彼の方法を一目みて,この方法はむしろ細かな手術に長けたわれわれ日本人向けの方法である,これはいけると直感した.これを使えば,単にヘルニア摘出のみならず,脊柱管狭窄症や頚椎にも応用できるに違いないと閃いた.米国で行われた内視鏡の講習会にも参加した.
帰国してから,暫くしてこの器械を借りてまず生豚を使って行ってみた.手術見学の経験と講習会での器械操作を思い出しながら,6箇所ほどの訓練を行った.次に剖検死体を用いて同様の訓練を行った.これでいけると確信して第1例の症例を行ったのが1998年8月であった.L4-5の大きな中心性ヘルニアであったが,アプローチに苦労したものの幸い一塊として摘出できた.その後,現在までに500余症例を経験してきたが,この間learning curveは決してやさしくはなかった.もうこれで十分な技術が身に付いたと慢心するたびに硬膜損傷や思わぬpitfall & trickに悩まされた.しかし,それをここまで続けてこられたのは患者さんの手術後の順調な経過と満足した言葉だった.この方法は手術後の創部痛は確かに従来法より軽く,早期離床,早期社会復帰を可能にした.この手術をやり始めてから2年して腰部脊柱管狭窄症へ応用した.片側進入で両側の除圧ができ,特に対側の視野の確保が良いことがわかった.従来法に比べてはるかに低侵襲な手術が可能である.最近では頚椎に適応を拡げている.
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