メディカルエッセー 『航跡』・11
ウイーン—ブダペスト間無賃乗車
木村 健
1
1アイオワ大学医学部外科
pp.912-913
発行日 1997年7月20日
Published Date 1997/7/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407902774
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1985年7月,ウィーンで開かれた英国小児外科学会を終えて,鉄路ハンガリーのブダペストに向かった,ウィーン駅午前11時発ブダペスト行き国際列車は,続いて開催されるハンガリー小児外科学会に出席する小児外科医のグループでほぼ満席であった.学会の前にウィーンに向かう途上立寄ったスイスのチューリッヒ市内の旅行社でこの列車のコンパートメントを予約,往復の旅費25ドルを払って手にしたチケットをパスポートの間に挟んで重いラゲージをひきずりながら広い駅の構内で乗るべき列車を探す.低いプラットホームから客車のデッキに上るステップに足をかけると,ひと安心のせいか,どっと汗がふき出るのであった.
チケットに書かれた番号のコンパートメントにたどり着く.この車輌の乗客はみんな見慣れた顔ばかり,まるで国際小児外科修学旅行の団体のような様を呈している.サンディエゴのデビッド・コリンズ夫妻が同じ6人掛けのコンパートメントに坐っていて,アメリカンらしく歓声で迎えてくれるのであった.何年か前,サンディエゴ小児病院に招いてもらい一緒に手術をした鎖肛の子どものその後の経過や,奥方の可愛がっていた仔牛ほどの愛犬が押込み強盗を退散させたことなど,想い出ばなしにふけっている間にも,列車はすべるがごとくウィーン駅をあとにしたのであった.ハンガリーとの国境まで30kmと無いのである.
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