鴨川便り・8
医師と人間
牧野 永城
1
1亀田総合病院診療統括
pp.1024-1025
発行日 1994年8月20日
Published Date 1994/8/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407901608
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ここら辺で少し息抜きをしたくて選んだテーマである.医師の,または医師の生活の中の人間的な部分といったようなことを表現したくてつけた題である.医学,医療は人間臭い科学領域という印象がある反面,かなり非人間的な側面があって,医師はとかく,人の面を見失いがちになることを視点に置いたつもりだが,かなり苦し紛れな題で筆者の頭が疑われそうな気もする.
臨床医の生活の中には多くの人々との出会いがある.これだけ不特定多数の人達とその家庭の内部や個人の秘密にまで傍若無人に踏み込んで質問するばかりか,文字どおり男も女も,老いも若きも裸にして頭の先から足の先までつくづくと触ったり見たりして,文句一つ言われぬばかりか,感謝されるなどという職業は他にあるとは思えぬ.筆者も外科医なので,現役時代は若い女性の感嘆するような美しい乳房を,いろいろな角度から眺めるばかりか,時間をかけてすみからすみまで丹念に触ったものである.男冥利と言いたいが,読者は皆知っているように,乳房の診察で欲情に浸る者はいない.第一,診断ができない.産婦人科の医者だって,診察のときはつまらぬ顔をしている.医師は診察室や病棟から一歩外に出たときに人間らしい感情に戻るということか.
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