特集 外科患者・薬物療法マニュアル
Ⅳ.術後愁訴・合併症に対する薬物療法
1.術後疼痛
石埼 恵二
1
1群馬大学医学部麻酔科蘇生科
pp.118-119
発行日 1992年10月30日
Published Date 1992/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407900962
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疼痛の治療は近年急速に向上している.特に癌性疼痛の治療は,経口モルヒネ薬の普及で患者のQOL(生活の質)は向上した.しかしながら術後の疼痛については,呼吸抑制などの副作用を懸念するあまり,不十分な薬剤の投与で患者に苦痛を強いる傾向にある.
最近,術後疼痛を適切に治療すると,以下の点で有用であることが明らかになってきた.呼吸窒素バランスを改善し,入院期間が短縮する.血栓や塞栓症の発生が少ない.下肢切断術では幻肢痛の発生が減少する.術後疼痛は末梢血管抵抗,血圧,心拍数を増加させるので左心室仕事量を高め,うっ血性心不全発生率の増加につながるが,これを防止する.疼痛により喀痰排泄が不十分であると呼吸器合併症の頻度を高めるが,これを防止する.これらの結果は手術の危険率を低下させる重要な因子として,適切な鎮痛薬療法が必要であることを示している.また最近,インフォームド・コンセントなど患者の権利が主張されているが,患者に不要な苦痛を強いることは人道的側面からも問題である.手術を行うものは術後疼痛に対し正しい知識をもち,適切な薬物療法を行うことが大切である.
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