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緒言
開腹術後の苦痛を大別してみると(a)手術創の疼痛,(b)操作された内臓諸器官より発する疼痛,(c)術後の精神的苦悩感などがある。このうちもつとも患者を苦しめるものは(a)であることはもちろんであるが,これはきわめて激烈でありこれを鎮圧するには従来モルフィン系麻薬剤が常套手段として使用されていたが,最近非麻薬性の強力鎮痛剤が発現するにおよび術後の苦痛除去法の研究が進められてきた。しかしこれらの薬剤はいずれも対大脳中枢性のものであり術後の激痛鎮圧にはやはり頻回あるいは大量を使用しなければならぬのでこの面の障害が生ずることは当然である。つぎに手術後に疼痛が発現するのは当然であり疼痛を訴えればそれを鎮圧する鎮痛剤を使用すればよいではないかという安易な考え方に向かうより,手術後の苦痛(創痛を含めて)の原因は何かを研究しそれに基づいた疼痛軽減法の研究に進むべきであり,これこそ真の意味での合理的術後疼痛軽減法であるといえよう。
まず従来は術後疼痛の原因としては手術時局所操作の影響に基づくものと大ざつぱに考えられていたようであるが,私はその原因究明により「術後疼痛は疼痛の末梢受容に関連しているものが大部分を占めている」という結論より術後疼痛軽減法の再検討を行ない,まず術前に消炎酵素剤キモタブ錠を投与しておくことにより術後疼痛軽減に有利な効果を得たことを報告した。続いて他の消炎酵素剤つぎに非ステロイド性抗炎症剤(錠剤あるいは坐剤)および抗キニン剤を術前あるいは術後に使用しそのおのおのに有利な効果を得たことを回を重ねて報告した。その結果「術後疼痛軽減のためには末梢受容の遮断すなわち発痛成分拮抗剤(主として抗炎症剤)の投与により効果がある」ことを確認した。つぎに術後疼痛と称するものは単に疼痛のみでなく術後感という複雑なる精神要素を包含したものであるから,これを単味単独の一方法で押し通すということ自体が無理であり決して有利な方法ではないということに思い至つた。したがって前記諸要素を確実に除去するに適合した有利な薬剤あるいは方法が発見されるまでの現段階では術後疼痛軽減のためには末梢受容遮断法(発痛成分拮抗剤使用)と中枢受容遮断法(鎮痛鎮静剤使用)の組み合わせによる方法がもつとも合理的でありしかも成績の優秀なものであると確信するに至つた。
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