特集 外科患者・薬物療法マニュアル
Ⅲ.術前・術後管理における薬物療法の実際
13.腸間膜血栓症手術
稗方 富蔵
1
1聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院心臓血管外科
pp.106-107
発行日 1992年10月30日
Published Date 1992/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407900957
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腸間膜血栓症には,腸間膜動脈の血栓症と静脈の血栓症がある.いずれの場合も診断が困難であり,治療の時期を逸すると致命的になることが特徴である.発症とともに大量の血漿が腸管内に漏出するために血液が濃縮され,脱水と循環血液量の減少が起こりショックとなり,代謝性アシドーシスが進行する.犬を用いた上腸間膜動脈結紮の実験によると1),梗塞が起こるまで1時間に5%の割合でほぼ直線的に循環血液量が減少する.腸管の梗塞が起こると腸管内への大量出血が起こり,さらに腸管の穿孔により汎発性腹膜炎となり,エンドトキシン・ショックも加わり急速に全身状態の悪化を来す.したがって,このような病態生理の理解の上に立った術前からの薬物療法が必要である.また術中,術後においても血栓防止のための抗凝固療法,血栓溶解薬の使用とともに急性循環不全に対する薬物療法が継続して必要である.
血行再建術後に急死する場合もあり,その原因として急速な血漿の喪失と腸管内への出血による急性循環不全,電解質のシフト,特に障害された腸管の細胞を通してのナトリウムとカリウムのシフトによる低ナトリウム血症と特に高カリウム血症2)が問題であり,さらに虚血腸管からのヒスタミンやエンドトキシンなどの有害物質の吸収などが考えられ,術後急性期にはこれらに対する対策が必要である.また体液の漏出は術後も持続するため一時的に補っても不十分であり,厳重な監視が必要である.
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