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この「あとがき」は4月中旬に書いていますが,COVID-19による感染が深刻な状況となっています.各国の首脳が第二次世界大戦以来,と宣言するように,約75年ぶりの世界的な危機的状況であり,この先どうなるのかを予測することは困難です.本誌が発刊される6月には,感染者数が減少傾向となり,医療崩壊に陥っていないことを心から祈っています.本邦では,専門家会議の不眠不休の努力によりクラスター分析が行われ,コロナは永らく抑制されてきましたが,3月の海外卒業旅行や飲み会クラスターによる感染拡大によって陽性者が急増しました.そのほかにもジムや教会といった,人々が交流するところでクラスターが発生しています.本当にコロナは社会的な生き物である人間の弱さにつけ込む恐ろしいウイルスだと思います.みんな洞穴(自宅)に閉じこもっているしかありません.なんといっても100年に一度の大きなパンデミックですから,人間社会に与える影響は甚大だと思います.ポストコロナ時代は人間の社会生活の見直し,医療の在り方,そしてわれわれの働き方にも大きな変化が生ずるのではないでしょうか.米国の哲学者であるTimothy Mortonは,コロナによる工場の稼働減少,飛行機を含めた交通機関の減便によって地球規模の環境の改善効果がみられており,「コロナとの共生」が必要とさえ唱えています.まるでナウシカの世界ですね.NHKの特番では,イスラエルの歴史学者であるYuval Noah Harari教授が,ポストコロナ時代は医療の重要性がさらに増し,特に透明性が高く信頼のおけるエビデンスを作ること,そしてそれを市民にわかりやすく公開することが必須であると述べていました.そうしなければハンガリーやイスラエルのように,市民の不安を煽り市民の行動履歴や生体情報を独占しようとする独裁的な指導者が台頭すると警鐘を鳴らしていました.今回のパンデミックを「災い転じて福となす」とできるか,「地獄の一丁目」にしてしまうか,すべてわれわれ市民の自覚にかかっていると思います.一市民として一医師として毎日を緊張感もって生きていきたいと思います.
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