書評
—坂井建雄(著)—図説 医学の歴史
北村 聖
1
1地域医療研究所
pp.626
発行日 2020年5月20日
Published Date 2020/5/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407212946
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
同級生の坂井建雄教授が2年余りの歳月をかけて『図説 医学の歴史』(医学書院)という渾身の一冊を上梓した.坂井氏の本業は解剖学である.学生時代から解剖学教室に入りびたりの生粋の解剖学者である.卒業後,それぞれの道に専念し接点があまりなかったが,再度会合したのが医学史の分野であった.聞くところによると,ヴェサリウスの解剖学から歴史に興味を持ったそうであるが,私が読んだ「魯迅と藤野厳九郎博士の時代の解剖学講義」の研究は秀逸であった.2012年に坂井博士の編集による『日本医学教育史』(東北大学出版会)が出版されて以来,より親しくさせていただいている.坂井博士は恩師養老孟司先生と同様,博学であると同時に,好奇心に満ちている.自分の知りたいことを調べて書籍化していると感じる.
さて,本書は表題が示している通り写真や図版が多い.特に古典の図版の引用が多いが,驚くなかれ,その多くは坂井博士自身が所有されている書籍からの引用である.2次文献ではなく,原則原典に当たるという姿勢は全編を貫く理念であり,それが読む者を圧倒する.まさしく「膨大な原典資料の解読による画期的な医学史(本書の帯)」である.また,史跡の写真も坂井博士自らが撮影したものが多く,医学史の現場にも足を運んだことがよくわかる.また,書中に「医学史上の人と場所」というコラムが挿入されており,オアシスのような味わいを出している.内容もさることながら,人選が面白く,医学史上の大家から市中の名医(荻野久作など)までが取り上げられている.
Copyright © 2020, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.