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●さまざまな史実を一覧した図表が古代から現代までをつなぐ
坂井建雄先生は多くの医学史研究者が敬愛する存在である.長いこと順天堂大学解剖学の教授であり,解剖学者としての仕事だけではなく,解剖学の歴史を軸とした優れた業績を次々と発表されてきた.チャールズ・オマリーのヴェサリウス研究を『ブリュッセルのアンドレアス・ヴェサリウス1514-1564』(エルゼビア・ジャパン,2001年)として翻訳した仕事や,初期近代の解剖の歴史を検討した『人体観の歴史』(岩波書店,2008年)などは,非常に重要な日本語の著作である.その坂井先生が『図説 医学の歴史』を出版された.さまざまな意味で,圧倒的な力と有用性をもつ仕事である.
坂井先生が打ち立てたのは「図説の」医学の歴史である.英語のタイトルが “The History of Medicine with Numerous Illustrations” であることが象徴している.歴史上のベーシックな事実,それを示す画像,そしてそれらの堅固な事実を整理して並べた一覧表の集大成である.このような画像や図表は全体で650点以上も集められ,1つひとつ丁寧に検討され,非常に見やすい形で表示されている.画像はカラーであり,医学の歴史がもつヒトや動物の活動が感じられる.とりわけ強力なものが,一覧表となった図表の利用である.著名な医師の著作の一覧表,それらの章立ての一覧表,生理学の概念の一覧表,欧州の薬草園の300年以上にわたる設立年次の一覧表,日本の医学校の設立年次の一覧表など,さまざまな史実が一覧の図表となっている.このような画像と図表の集積は,古代から現代までをつないでいくような効果をもつ.大きな図説プロジェクトに基づく書物は,英語のトータルな医学史の書物でも見たことがない.まさに圧倒的な力と有用性である.
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