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はじめに
腹腔鏡下手術は,腹腔内にカメラと鉗子などを挿入して行う外科手術である.開腹手術に比べ低侵襲であるため患者への負担が少なく,多くの医療機関に採用され普及が進んでいる1).しかし,鉗子の挿入孔が“てこ”の支点のように働くため独特な操作が必要であり,またモニタを通じて腹腔内を見ながら手術を行うため,方向・スケールの変換(Hand-Eye Coordination)への適応といった特有の技能が求められることから手術難度が高い(図1).そのため医学生の訓練には熟練医が側に付き指導することが望まれているが,腹腔鏡下手術の指導力をもった熟練医が多忙なため指導が十分に行き届いていないのが現状である.
手術の従来トレーニングにおいては,ドライボックス中に模擬臓器を置いて練習が行われている.このとき,本来は熟練医が側に付き鉗子操作における非言語的な「コツ」のようなものを伝達する必要があるが,熟練医の指導のない場合,訓練者の試行錯誤に頼る独学となり,かえって不適切な癖を身につけてしまう問題が生じる.この問題は近年のバーチャルリアリティ(以下VR)技術を用いた高額なVRシミュレータにおいても同様である.
したがって,状況に即した鉗子操作の学習には,熟練医による言語的フィードバックや非言語的なコツを含めたスキルの伝達が必要であり,それに基づいた学習が熟練医の育成には重要となる.
われわれは熟練医不足の問題解決に向け,視野共有手法を用いた腹腔鏡手術トレーニングシステム(以下“追いトレ”)をすでに提案してきた2,3).このシステムは学習者が見ているモニタ上に自身の鉗子と熟練医の鉗子を重畳して表示し,学習者が熟練医の鉗子を追従することでトレーニングを行う.独学で鉗子の動かし方を学ぶ従来のボックストレーナに対して,熟練医と同じ視野を共有して鉗子を重畳させるだけで正しい鉗子操作を学習できる.ここで用いられる画像は腹腔鏡手術時の実際の記録映像そのものであり,VRを用いたシミュレータに比しても高い臨場感をもつだけでなく,必要とされる手術スキルの教材化の価格も大幅に低減することが可能である.
本稿では,次項で“追いトレ”についての技術解説を行い,以降の項でさらに発展させた触覚付与による効果,およびどの程度奥行き感覚が保持されるかについて議論を行う.また今後の展望について述べる.
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