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はじめに
肝腫瘍の切除術式は腫瘍核出術や部分切除などの非系統的切除と,亜区域切除,区域切除,左または右肝切除などの系統的切除に二分される.系統的切除はCouinaud1)による門脈枝の解剖的分布に基づく8つのsegment(S)に沿った切除であり,肝離断中に処理するべきグリソン枝が少なく,出血量の低減や胆汁漏の防止に有利であると予想される.また,肝細胞癌に対する手術の場合,腫瘍細胞が門脈系を介して肝内へ転移すると考えられ,門脈の支配域に沿った肝切除は予後を改善することが示されている2).しかし,解剖学的左葉(S2+S3)と右葉(S4〜S8)との境界(門脈臍部および肝鎌状間膜付着部)など一部の分葉を除けば,肝表面からS1〜S8の区域境界を識別することはできない.よって,系統的肝切除を施行するためには,まず切除対象の肝区域境界の同定が必要となる.
1985年,Makuuchiら3)は術中エコーガイド下に門脈を穿刺,indigo-carmineを注入し,肝表面に出現する染色域に基づいて肝区域を同定する方法を報告した.この肝区域染色法により正確な系統的肝切除が可能となり,以後おもに肝細胞癌症例に適応されてきたが,肝硬変による線維化が強い症例や,肝表面が結合組織で被覆された再肝切除症例などでは,肝表から染色域を視認することが困難であることも経験された.
近年,indocyanine green(ICG)が近赤外光(760 nm)照射下に830 nm前後にピークを示す蛍光を発する性質4)を利用し,赤外観察カメラでICGを含む生体構造を手術中に描出する方法(ICG蛍光法)が開発され,乳癌センチネルリンパ節の同定5)や動脈血流の評価6),胆管7,8),肝腫瘍9,10)の描出に臨床応用されてきた.また,2008年には肝区域染色にICGを用いる方法がAokiら11)によって報告され,その後,腹腔鏡手術にも導入が試みられている12).当院ではindigo-carmineに極微量のICGを混合した染色液を用いた新たな肝区域染色法を施行し,再肝切除症例や肝硬変症例でも肝区域同定が明瞭にされることが確認された13).
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