原典を繙く・5
Dieulafoy潰瘍(その5)—Exulceratio simplex L'intervention chirurgicale dans les hématémèses foudroyantes consécutives à l'exulcération simple de l'estomac.
島津 久明
1
1東京大学医学部第1外科
pp.501-503
発行日 1985年4月20日
Published Date 1985/4/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407208981
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成因に関する論議は別としましても,私たちはCruveilhierによつて単純性潰瘍(ulcus simplex)という名称のもとに詳細に記載された病変,すなわち確認の容易な大きな病変のほかに,胃に別の物質欠損が生じる場合があることを現実に知つたのであります.これらの病変はときにかなり広い面積をもつことがありますが,きわめて表在性の病変で,注意深く観察しないと,見落しかねないものであります.私はこの物質欠損を単純表在性潰瘍(exulceratio simplex)と呼びたいのですが,これはおそらく単純性潰瘍の初期像とみなされるものではないかと思います.きわめて表在性で,一見して重大そうなものにはみえませんが,前述の7例にみられましたように,この単純表在性潰瘍は恐しい結末へ導く可能性を秘めているのであります.その潰瘍形成過程で,ある程度の口径の細動脈に遭遇しますと,先ほどお示しした1例にみられますように,これを侵蝕して,その側壁の破綻をひき起こします.その壁が部分的に損傷された動脈からの出血は,通常,完全に断裂した動脈からの出血よりもはるかに激しいものなのであります.その理由は,前者の場合の出血では,血管壁の収縮や凝血塊の形成による自然止血傾向が乏しいからであります.そして現実に単純表在潰瘍のすべての患者におきまして,胃出血がほとんどあるいはまさに雷の襲来を思わせるような激しいものであつたことからも,おわかりになることと思います.
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