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はじめに
臓器移植にとり,拒絶反応は最大の合併症である.しかしながら,この合併症は,むしろ起こることの方が生理的と考えられる反応である.なぜなら,移植臓器は,あくまでもレシピエントにとつて,非自己であり,異物であるからである.生体の長い歴史を振り返つてみれば,異物を体から排除する機構,すなわち拒絶反応こそ,種保存の最も大切な機構であつたとも言える.しかし臓器移植が,致命的な病的臓器を正常臓器に置換することを目的とするからには,例え生理的反応とは言え,拒絶反応は最大の合併症である.
1936年,Voronoy, V. が,ヒト大腿部に死体腎を移植して以来,治療を目的とした同種臓器移植は驚くほどの進歩をみせ,今や中枢神経を除いた,あらゆる臓器の移植が行われるようになつた.拒絶反応を予防する手段について見ても,1955年,Hume, D. M. らによりヒト腎移植に副腎皮質ホルモンが使われ,1963年にはMurray,J. E. らにより,azathioprine(AZP)が腎移植の臨床に使われた.このAZPとsteroidは,現在に至るまで,臓器移植における免疫抑制剤の根幹をなしている.また,1965年にはVredevoe, D. L. は,ヒト腎移植にとり白血球抗原の適合性,いわゆる現在でいう組織適合性抗原(HLA抗原)の適合性が重要であることを報告し,1967年にはStarzl, T. E. らが,免疫抑制剤として抗リンパ球血清が有効であることを,ヒト腎移植例で証明した.すなわち,今からほぼ15年前には,移植にとつて必要な免疫抑制剤と組織適合性についての知識が,出揃つたことになる.しかし,本稿話題の術前輸血あるいはサイクロスポリンAの出現をみるまでの10年間,移植手術に関する外科的知識の集積によつて,少しずつは成績の向上を見てはきたものの,日を見張るような成績の躍進はなかつたと言つても過言ではなかろう.
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