特集 癌と栄養
巻頭言
癌と栄養
武藤 輝一
1
1新潟大学医学部第1外科
pp.1650-1651
発行日 1980年12月20日
Published Date 1980/12/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407207563
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生体に癌ができると生体の栄養状態が悪くても癌は生体から栄養をとり,どんどん増殖進展してゆき,やがて生体の死とともに癌も消滅することが知られている.従つて,癌患者の栄養状態を改善するために十分な栄養素を投与しようとすると癌の増殖を促進することになるのではないかという心配がある.実際に担癌動物に十分な栄養素を投与すると腫瘍の増殖は著しく促進される.しかし,このとき制癌剤投与を平行すると腫瘍の増殖はおそくなるかみられなくなる.
消化器癌患者では,癌が存在するということのほか経口摂取が制限されたりするため手術前後に十分な栄養補給を行なわないと吻合部の縫合不全や腹壁創の哆開などがみられる.ところで栄養補給だけでは前述のごとき心配がないではないが,たとえば食道癌患者ではブレオマイシンあるいは5-flurouracilの投与と照射を術前治療として併用しても,もし高カロリー輸液を行なつていたり,nasojejunal tubeやcatheter jejunostomyの部を介してelemental dietsやその類似のものによる経腸高栄養法が行なわれていれば,この術前治療の間に栄養状態は悪化することはないし,むしろ3〜10kgの体重増加のみられることが多い.従つてそれだけ術後の創治癒も心配が少なくなる.同時に制癌剤投与や照射療法による患者の免疫能の低下も阻止され,中には改善のみられるものもある.
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