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はじめに
血管病変における血管造影の歴史は古く,Rö—ntgenがX線を発見した3カ月後にHascheckとLindenthal1)によって試みられたTeichman注入による切断肢血管の造影を初めとする.生体においてはDos Santos2)やLeriche3,4),Villar5)らによる先駆的な業績やその後のHulten6),Staple7),あるいはErtugrul8)らの検討を経て現在では極めて多くの研究報告や専門書9,10)がみられている.しかしながら,これら研究のうちで初期のものはおおむね手技的に経腰的大動脈造影法や上下肢あるいは頸動脈の直接穿刺法によつて行なわれたものであり,従つて対象疾患も大血管を中心とした硬化性病変や,ある種の慢性炎症による血管の変化などに限られているようであつた.これに対しカテーテルによる選択造影が普遍化した昨今では上述の手技はあまり利用されることがなくなり,更に連続撮影装置や高速映画法,VTRなどの開発改良により血管病変の対象も大血管のみならず末梢における動静脈疾患や複雑心奇形など多彩となり,これらの解剖生理学的異常を解明する1手段として,また治療法の決定に不可欠な方法として重要視されるに至つている.すなわち換言するならば,Seldinger11)法以前の所謂古典的な血管造影の歴史は大血管及びその主分枝の血管病変を解明する手段として進歩したとしても過言ではなく,更にSeldingerによる近代的な血管造影法の開発以後も現在に至るまで血管病変は他臓器の疾患とともに常に重要な対象と見なされていると言えよう.
ところで,記述が前後するが,今回の表題である「血管病変」についてはその定義づけは容易でない.もし仮に「血管病変」を広く血管の病的な変化と考えるならば,その対象は極めて広範囲に亘り,それらを限られた紙面で述べることは困難である.また広義の血管病変の中には他稿にて論ぜられるであろう項目も少なくないと思われる.従つて,本稿で扱う「血管病変」は血管外の要因であるところの臓器の炎症,腫瘍,外傷などに際して出現する血管病変を除いたものとし,これらのうちで日常遭遇しゃすい症例を示し,併せて若干の文献的考察を加えながら表題の概念について述べることとする.
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