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食道扁平上皮癌には主病変に連続して,時には離れて上皮内癌・異型上皮が存在する.食道癌治療のためには,術前にその存在と拡がりを正確に診断することが要求される.醋化法併用ルゴール染色と生検の併用はそのために最も有力な方法である.
症例1はImの隆起を主体とする病変で(図1—a)その境界は一部不明瞭である(図1—b).染色にてその境界は明瞭となり病巣がほぼ全周性に存在することを示している(図1—c,d).新鮮切除材料でも追試可能で単なる肉眼所見で(図2—a)主病変に接してみられる表面粗な部分は0.2M,pH4の醋酸緩衝液を噴霧すると,colposcopyでいうleukoplakiaの状態が出現しその境界は明瞭となる(図2—b).更に市販のルゴール液を倍に稀釈して噴霧するとその部は染色されず黄色を呈する(図2—c).その他醋酸加工では変化なくルゴール液でやや染色不良な部分もみられる.これらの部分の組織変化をみるため生検鉗子で採取して検討すると,肉眼では識別困難で醋酸加工,ルゴール染色で異常を示す部分(図2—c,①②)は上皮内癌で(図3—a,b),醋酸加工で変化なく,ルゴール染色でやや染色不良な部分(図2—c,③)は悪性所見を認めなかつた(図3—c).症例2は表層型の早期癌で通常内視鏡でびらんと壁の硬さが認められるが病巣の拡がりは不明で(図4—a)染色するとその境界は明瞭となつた(図4—b).症例3は隆起の側方に上皮内癌が存在した例で,やや褪色する部分がみられる(図4-c).染色でその境界は明瞭となり,染色所見から上皮内癌の可能性が高いことが分かる(図4-d).最も問題となるのは主病変と離れて存在する病巣である.症例5(図5-a)のように主病変の近くに存在する例もあり,又症例6(図5-b)のように遠く離れて存在する例もある.後者は頸部食道の近くに認めることが多く特に注意する必要がある.これらの病巣は内視鏡下の染色にて,その存在と拡がりが正確に把握されている(図6-a,b).この部の生検所見は扁平上皮癌で,後者は上皮内癌の像を示し(図7-a,b),切除材料の検討でもこの部は上皮内癌であつた.また症例7,8のような主病変と離れて存在する小さい染色不良部(図6-c,d)も存在する.このような病巣は多くは異型上皮でその異型度は多彩であるが(図7-c,d)その染色像から癌との鑑別がある程度推定可能である.注目すべきは通常内視鏡で識別困難で,染色にて初めてその存在を知り得た病巣が存在する事である.症例9(図8-a,b)は広い範囲に染色異常部を認め,大部分は異型上皮で一部に癌を認めた(図9-a).切除材料での検討でも,異型上皮巣の一部にmicroinvasionをもつた上皮内癌が存在する早期癌であつた.症例10(図8-c,d)のように上皮内癌(図9-b)も存在した.また症例11(図10-a,b),症例12(図10-c,d)のような癌巣が主として上皮下に存在する症例でも,染色にてその上皮の状態を知る事ができ診断がより正確となる.
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