Japanese
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特集 手術とその根拠・Ⅰ
甲状腺癌の手術とその根拠
Operation of struma maligna
伊藤 国彦
1
,
原田 種一
1
Kunihiko ITO
1
1伊藤病院
pp.723-727
発行日 1971年5月20日
Published Date 1971/5/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407205355
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はじめに
甲状腺癌の手術とその根拠という命題に当つて,まず十分に理解しなければならないことは,甲状腺癌は他の臓器の癌と比較して,一般の癌の通念としては考えられないようなきわめて特異な点を多くもつている癌であることである.一口に甲状腺癌と称していても,大雑把にいつてその悪性度の点で,良性と悪性のまつたく両極端のものが含まれている.すなわち組織的に分化した腺癌は,発育増殖がきわめて緩慢なものが多く,甲状腺腫瘤を発見した後に,なんらの治療も受けなくても長年ときには10年以上も放置していても支障がない場合がまれではない.このような症例ではこの長期間ただ前頸部に腫瘤がある以外には,なんら苦痛もなく健康人とまつたく同様な日常生活を送つているものも珍らしいことではない.したがつて甲状腺癌を有していながら,それに気付いていない人があることも十分に想像できることで,この事実は丸地1)の集団検診による疫学的研究でも裏づけされている.このような腺癌では手術成績も良好で,根治手術が施行されれば永久治癒が得られたものと考えるのが常識的である.その上,手術時に明らかに癌組織を遺残しても,その時点から少なくとも肉眼的にはほとんど増大をみることもなく長期間を経過する症例も少なくない.
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