患者と私
切りすぎる外科医—医療危機とメスの濫用
林 正秀
1
1東京杉並組合病院外科
pp.1724-1725
発行日 1970年11月20日
Published Date 1970/11/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407205252
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Ⅰ.目立つ外科医への批判
いまや心臓移植の可否が大問題となるほど近年のメスの分野の進歩は目をみはるばかりである.だが,このような進歩と対照的に外科医への批判もかつてない位目立つてきた.日本における心臓移植をめぐつて,これを告発する会が誕生したのもつい先頃のことである.またガン抗体をつくる試みが人体実験として明るみにでたり,高圧酸素タンクの爆発事故がおきて世間を驚かせたのもいまだ昨年のできごとである.無胃村(無医村ではなく)の出現をマス・コミがとりあげたのを記憶している人も少なくないであろう.美容整形ブームや事故,手術過誤もマス・コミで報道されることが増えてきている.これらをめぐつてメスのあり方,外科医のあり方に厳しい批判の目がむけられてきたのは周知の通りである.一方,いまだ社会問題化はしていないものの,私たちの日常の仕事の中で外科的医原病の増加が注目されて以来,はや10年になる.これらの問題の本質的な解明は拙著「外科医の告白」(三一書房)を参照していただくとして,端的にいえばメスの濫用→外科医の切りすぎに他ならない.そして切りすぎの本質は,何よりも医療技術にある以上,メス本来のあり方を疎外する切りすぎへの責任から外科医は自由ではありえないはずである.と同時に,これを放任することは患者にとつて大問題なのは元より,外科医が自ら墓穴をほることにもなるのである.
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