臨床メモ
脳外科的手術における止血
松井 将
1
1昭和大学脳神経外科
pp.1298
発行日 1968年8月20日
Published Date 1968/8/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407204668
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脳外科的手術だけでなく,すべての外科手術において根本的で面も重要で困難な問題は,やはり如何に組織の障害を少なくして完全な止血を成し得るかにあると思う.特に脳外科においては,その対象となる脳組織の特殊性から,止血にあたつては細心の注意の下に組織の障害を極少に止めるよう努力しなければならない.それ故,脳組織よりの出血に対しては無闇に電気凝固を用いて止血部位の周囲の健康組織にまでも障害をおよぼさないようにし,動脈性出血ならば血管グリップによつて止血するのが一般常識である.より小さな血管で電気凝固の適応な場合には,先端を溶かして滑らかにした細いガラス製吸引管の先に,7mm2大の"脳綿"(Gehirnwatte)を当てて,止血部位とその周囲を吸引乾燥させながら細小ピンセットで凝固すれば,止血効果を増強させると共に目的物のみの凝固が成し遂げられる.脳綿には黒い木綿糸を結びつけて手術野外に垂れ下げてあるので,万一の場合にも紛失するようなことはない.また脳綿は自然綿ではなく線維が細く強くて長い特殊な人工線維で織つた人工綿(ドイツ製)を圧縮してあるため,線維がほつれて異物として脳内に残留するというような心配は不要である.この脳綿については,線維会社に分析させ製造を依頼したが満足した結果を得られないので,いまだに輸入品を使用している.
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