患者と私
ゴルフの友はかつての患者
河村 謙二
1
1京都府立医科大学
pp.259-260
発行日 1967年2月20日
Published Date 1967/2/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407204238
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医者として患者に接し,またその人に治療を加えるのにその人の貴賎,貧富が問題となろう筈はない.またそうあるべきが当然であることは判かりきつたことである.しかしそうはいつても,離れることのできない枢要の地位にある人や,家庭の事情上の問題で,当然加えられねばならない治療,特に私らのようなメスを採って治療を加えねばならない立場のものは,どうしても純学門的立場のみに終始して他のことを全く度外視してその考えや,決定通りの手術をのみ純粋に一挙に貫行することについて,多少の躊躇を感ずることが全然ないとはいえない.そんなことでは,ほんとうの外科医としての天職を完うしていないことは当然なことではあるが,そこが人情である.弱い人間性が,冷たく科学的立場に立たねばならない医師—外科医のメスを鈍らすことがないとは誰もが断言しうるものではあるまい.特にわれわれがこのような立場に立たされることの多い対照患者は,それが医師である場合にも多いことは,これも多くの人の経験されていることと思う.私の聞知している範囲でも,多くの著名な医師が集つて衆知を結集して行なわれた治療の結果であつて,それが結局において逡巡,姑息の誹を免れえない結果に終つたというような例が,そうまれではない.
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