雑感
食欲の秋
奥山 虎二
pp.1572
発行日 1966年11月20日
Published Date 1966/11/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407204152
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「天高く馬肥える秋」と昔から言われてきたが,近頃では肥えるのは馬ばかりではなさそうだし,また秋とばかりには限つていないようである.ここ数年来,大人はもちろん,幼児,学童にも大分肥満体が目につくようになつた.食糧事情の最も悪かつた終戦当時は別として,戦前にも学童の肥満体はほとんど見受けられなかつた.われわれ学生の頃,小児科においては栄養障害の項で,急性消化不良症,慢性栄養失調症については数時間をさいて,講義を受けたし,臨床面においても多数の患者を扱つてきたが,肥満症については,特殊な内分泌障害によるもの以外についてはほとんど触れなかつたように記憶している.
顔色の悪い,なんとなく元気のない,ひよろひよろ脊の高い,胸壁の薄い,肋骨の走行の見えるような子をみると,大抵それは終戦子であつた.それからわれわれ医師も母親達も,とにかく元気な肥つた子を育て上げようと努力した,ミルクについては各会社が研究に研究を重ね,なるべく母乳成分に近づけ,腸内細菌叢の整調を保ち,また早期離乳を奨励して,身長体重の平均のとれた「大きい子」にしようと皆で努力した.またビタミンの補給も盛んにすすめた,そして子供がいわゆる標準曲線より越せば,それで医師も,親も,子供自身もまず一安心と一息ついたものだ.
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