患者と私
手術の思い出—あれこれ
前田 友助
1
1前田外科病院
pp.824-825
発行日 1966年6月20日
Published Date 1966/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407204005
- 有料閲覧
- 文献概要
五十余年を外科医一筋道で辿つて来た私は過去を顧みて色々の思い出がある.私の卒業当時にはまだ輸血もなく気管内麻酔もなく電気焼灼器もなく結核の特効薬もなく腸線もほとんど用いて居られず,骨手術等に今日多く用いられる無刺激に近い金属もなく,抗生物質もなくかく数え立てれば殆んど際限がない程で,これ等の発明発見と共に色々な新しい手術が行なわれるようになり患者が如何許りか幸福を得られる様になつたか計り知れない.これは専ら諸先輩の苦心研究の結果であつてこれからまだどこ迄進歩するか判るものでない.私は同僚諸氏と同じように出来るだけこれ等の新しい知識を早く身につけようと何時も努力してはきたが,それは到底私には出来る事ではなく言い換えれば患者にその時代時代の最善の治療を施すことが出来ず,往々にして失敗をし,患者にまことに申訳ないことをしたと心から詑びなければならぬことが稀でなかつた.これは恐らく私のみならずどのような優秀な頭脳,技術を有する人でも必ず完全には避け得られないことであると思われる.
医者殊にメスを用いる医者が患者に治療を施す時一旦不幸にして手術の方針を誤つたり或いは手術創が化膿したり又は治療法に手落ちがある時等にはこれが為に起る不結果を完全に取除く事は多くの場合殆んど不可能である.
Copyright © 1966, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.