--------------------
ある病院の思い出より
久松 栄一郞
1
1中大
pp.29-31
発行日 1950年6月1日
Published Date 1950/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541200154
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
I
今から20年程前,中国のある町にあるキリスト教病院を訪れたことがありますので,記憶と想像をまじえて報告することに致します。と云うわけは,その頃の中国は国民の経済状態も文明の状態も余り恵まれていず,丁度今日の日本の状態に近いように考えられるものですから,或はこんなお話も満更暇つぶしでもないかと思つたからです。
この病院は,ほぼ町の中央にあつて,1部1階,1部2階建の余りぱつとしないものでした。外来は大きい待合室をかこんでたのしい3ヵ所の診療室と薬局をもつていました。それにつづいて約100床足らずの入院病棟があつたようです。医師は多分英国人だつたろうと思いますが2名で,その他に中国人の医師が1名位いたようであります。キリスト教伝導師を兼ねていたりではないかと思います。従つて病院に営利性などあろう筈もなく,又患者の取り扱いに対して患者と云う1つの名称によつて10ぱ1からげの様な心ない仕草はなく,常に暖い心やりがあふれていたようであります。この宗教にもとずいた医療事業であるだけ,中国人にとつては,砂漠の中のオアシスの観があつたのであります。特に中産階級や貧困階級にとつては,なくてはならないものであり,実に感謝感激の施設であつたのであります。たとえその町在住の日本人の医師達からは.その医療技術のこまかい点,又医療設備に就いては多少の批判があつたとはいえ。
Copyright © 1950, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.