患者と私
ささやかな抵抗
若月 俊一
1
1佐久総合病院
pp.1110
発行日 1965年8月20日
Published Date 1965/8/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407203717
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「いつたい,どういうわけで,今ごろになつてそんなことをいい出すの?」私は聴診器を手にもつたまま,患者の傍のおやじさんを睨みつけた.——初めから手術の予定で入院したのじやなかつたか.今になつて少しばかり具合がよくなつてきたからつて,手術をとり消すという法があるものかと私は憤慨した.
いわゆる慢性再発性の胆のう炎の患者.55歳の主婦,もうこの3年間,時々胃ケイレン様発作の再発を繰りかえしている.タンセキといつてあるのだが,Biligraphinによる経静脈性胆のう造影では,うまく影が出ない.いつも外来治療でおさえているのだが,こんなことなら,去年の大発作の時,手術にもつていけばよかつた.こんなことをくりかえしているうちに,だんだん状態は悪化する.げんに,肝機能検査なんか,BSP試験にしろ,血清アルカリフォスファターゼにしろ測るたびに成績が落ちる一方じやないか.肝機能検査といえば,これをくわしく調べるという理由の下に一時内科治療にゆだねたこともいけなかつた,間歇期手術にもつていこうとしたのがいけなかつたかもしれない.
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