随筆
それからそれ(その4)—転校生
青柳 安誠
1
1京都大学
pp.512-514
発行日 1965年4月20日
Published Date 1965/4/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407203584
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十数年間父と別れて郷里の秋田市に祖父母と共に住んでいたわれわれ兄妹4人と母が,また父と生活をするために上京したのは,大正3年8月である.私は秋田中学第3学年の一学期を終えて東京に出たのであるが,つづいて二学期から入学しなければならない学校を選ばなければならなかつた.
といつても,東北の秋田におつたわれわれには,東京にどんな中学校があるかなどは知らなかつたし,また底ぬけのリベラリストでもあつた父には,息子の中学校のことで頭をなやますようなことは,考えられもしなかつた.ところが,東京に着いて,伯父が四谷に探しておいてくれた居宅に落ちつき,4,5日たつと,その伯父が私のもとにやつてきて『今日,市ケ谷加賀町を通つたら,偶然にも東京府立第四中学校という学校の門前に,第3学年への補欠入学の募集公告が出ていた.併し,志願者の資格として前学校の成績が5番以内でなければならない,としてあるが,お前はどうだ.もしその資格があるなら,府立でもあるし願書を出してみたらどうだろう』というので,私としては府立四中がどんな性恪の学校かも全然知らずに願書を呈出してみたのである.
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