随想 老外科医の随想・5
うまい,まずい
中田 瑞穂
1
1新潟大学
pp.634-639
発行日 1964年5月20日
Published Date 1964/5/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407203328
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大分前のことであるが,拙著「外科今昔」の中でも私は手術のうまい,まずいということについて,私の感ずるところを一と通り述べた.今またこの随想の前章に医療の普遍とか新医学知識の普遍について書いたので,外科手術の巧拙ということも多少の関連のある問題の一つでもあるから,そして,手術のうまい,まずいのちがいはそれだけのことに限れば,別に幾度もとり上げて考えて見たり感想をのべる必要もないと思うが,手術の巧拙ということは,それからそれと影響する範囲が決して狭くないし,殊に現医療制度による煩雑な制限とか点数などの問題ともからみ合う点が少なくないと思うので,私の思つていることも述べ読者の各自の御意見もうかがつて見たいと思うに至つた.
世の中すべての仕事には必ずといつてよい程うまいとまずいの差のあることは免れ難いことである.すべての生物の優劣のあることは誰でも知る通りである.芸術にせよ,料理にせよ,大工,左官職,商売,政治,何でも仕事という仕事には必ず上手と下手との区別がついて廻る.手先,口先のうまい,まずい,野球その他競技のうまい,まずい,殊さらに一つ一つあげて数えるまでもあるまい.
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