特集 手こずつた症例―私の経験した診断治療上の困難症(Ⅰ)
肺化膿症
篠井 金吾
1
,
早田 義博
1
,
青木 広
1
1東京医科大学
pp.539-545
発行日 1962年6月20日
Published Date 1962/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407202914
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はじめに
肺疾患診療の動向は,外国でも,わが国でも,この10年間同じような道をたどつてきている.10年前は肺結核の治療法が世界的な問題であつたが,近年は肺癌がこれにとつて代つている.肺化膿症は化学療法が進歩するまでは,かなりわれわれを悩ませた疾患の一つであつたが,諸種抗生物質の発見に伴ない症例も減り,予後も良好となつたが,それと同時に肺化膿症自体の臨床像も変貌し,診断の困難な症例が増加してきた.診断上の問題として,最近とりあげられてきた慢性肺炎の問題は重要である.慢性肺炎のなかには,吸収の遅延した肺炎,肉質化肺炎などの臨床症状の少ないSilent abscessや,リポイド肺炎,コレステロール肺炎,ビールス性肺炎のような各種のものがあり,肺癌との鑑別上極めて重要である.また,肺癌に続発して起る肺膿瘍や,癌性空洞と原発性の肺化膿症の区別が困難な場合もすくなくない.これらの問題は,最近の肺癌増加につれて,重要性をましてきている.
治療上の問題は,化学療法の濫用により,Fusospirochetary typeのものでも,薬剤耐性ブドー菌が病巣の主体となつている場合が多く,また,慢性化したものでは手術の困難性を増し,種々な問題を提起している.以下診断および治療上に困難を感じた2,3の症例を検討してみよう.
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