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緒言
約20年前にSebening(1932)38)39)はアメリカとドイツの胃・十二指腸潰瘍の比較を行い,後者に於ける潰瘍は前者のものに比し,一般に大きく,深く穿通し,その上多發性の頻度の高い事を指摘し,從つてその治療術式もアメリカに於ける様な胃腸吻合術と潰瘍部の局所切除を根本とすべきでなく,廣汎なる潰瘍部の切除を第1とすべきものと述べている。當時留學していた余等の1人は,この特異なる論文の示唆する所にあまり注意を拂わなかつたが,數年に亘る大消粍戰,それに引き續く敗戰の慘禍は今この論文の指摘する事態の深刻さを如實に吾々の眼前に展開しつゝあるのである。即ち戰時竝に戰後に於ける最惡の食糧事情は明かに我國に於ける胃十二指腸潰瘍の發生を多くし,且潰瘍そのものの性状を惡化せしめ,然も深刻な生活の不安は適當な時期に於ける充分な内科的治療を困難ならしめ,第1次世界大戰後ドイツ國民が經驗したと類似の事態を身を以て體驗せねばならぬ世相となつたものである。吾々は今日稀ならず優に鷄卵を容れ得る様な巨大な憩室状大潰瘍に遭遇する。胃壁を完全に破壞したのみならず膵・肝・結腸等周圍臟器に迄穿通している,斯の如き大潰瘍に對しては總ての内科的治療法は無效であるのみならず,姑息的な外科的療法,例へば胃腸吻合の如きものも治療的意義は極めて少い。かゝる巨大な穿通性潰瘍を治療する方法は唯一つ,胃切除が殘されているのみである。吾々は最近5ケ年間に定型的な穿通性潰瘍の31例を治療した。その中には優に鷄卵を容れる樣な,巨大な憩室状の穿通性胃・十二指腸潰瘍も含まれている。今これ等の症例の治療法,特にその永續治癒成績を中心として,穿通性潰瘍,殊に膵に穿通せる胃後壁の大潰傷の治療術式に考察を加えて見よう。
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